池田陽子:食文化ジャーナリスト/薬膳アテンダント

生産量日本一! 旨みと、パワーあふれる島根のしじみで、「ゆる薬膳。」  

薬膳というと「漢方薬を使ったお料理」、あるいは「薬膳のレストランに行かないと食べられない」というイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません! 

 

 中医学(中国の伝統医学)では、昔から「食事で体調を整える」という考え方があります。食材ひとつひとつには、すべて身体に及ぼす作用があり、体調、体質に合わせて、それらを日々の食事に取り入れることで、身体の不調を改善することができるとされています。スーパーに並んでいる野菜や肉、魚にも十分薬効があるのです。わたしは誰でも手軽にトライできる「ゆる薬膳。」を提案しています。

 

島根には豊かな水産物が多く揃っています。またこだわって栽培された野菜、フルーツなどにも恵まれています。島根のお魚をはじめとする食材の魅力を知る、「ゆる薬膳。的」島根の旅へ出かけました。

デトックスにおすすめのシジミ。体をリセットしてパワフル&ビューティ!  

 薬膳において、シジミは、デトックスにおすすめの食材。中医学では健康で美しい身体を作るためには、不足しているものを補うことも大切ですが、「余分なものを排泄すること」も大切だと考えます。

 

えてして、現代人は、食生活が豊かなぶん「補い過ぎている」傾向があり、毒素や老廃物をため込みがち。体調不良や、美容面でも肌荒れ、吹き出もの、太りやすくなる、ダイエットをしても、なかなか体重が減らない…といったトラブルを引き起こしてしまいます。まずは、しっかり体内をリセットすることが大切です。

 

しじみは、解毒に優れた食材。身体から老廃物を追い出すデトックスパワーがあります。また、疲れ目、老眼にもおすすめ。そして栄養学同様、肝臓強化、二日酔いにも役立ちます。 

 

 

ジョレンで掻き、手作業でも選別。シジミは手間隙かけて、送り出される 

シジミといえば、島根県。漁獲量日本一を誇り、宍道湖を代表する水産物です。日本には、3種類のシジミが生息しています。宍道湖に生息するのは、もっとも味がよいといわれるヤマトシジミ。そして、西部に位置する斐伊川からの淡水、日本海から流れ込む海水が混ざり合った汽水湖である宍道湖で育ったシジミは、身が大きくふっくら、コクがあり旨みいっぱいバツグンの味わいです。

 

現在、宍道湖でシジミ漁を行っている漁業者は約300人。漁は早朝、出船して行われます。「シジミ漁には3つの方法があります」と宍道湖漁業協同組合の宍道湖漁協参事 高橋正治さん。ディーゼル機関船に、クマデに籠を付けたような「ジョレン」と呼ばれる漁具を結び付けて、シジミを掻き取る「機械掻き」、船の上から人力でジョレンを使って海底を掻く「手掻き」、漁師がウェットスーツを着てジョレンを持って湖につかり、後退しながらシジミを採る「手掻き」があります。もっとも多いのは機械掻きですが、入り組んだ場所にいるシジミを採ったり、傷をつけずにきれいな状態で採るために、昔ながらの手掻きにこだわる漁業者もいます。

 

シジミ漁を終えた船が港に戻ると、選別作業が行われます。まず、浜で機械選別をして、S,M.Lの大きさごとに選別。さらに「身がきちんと入っているかどうか」「泥が入っていないか」を選別します。ここからが大変。1個1個シジミを「手で確認する」のです。

 

当然、殻をあけるわけにはいかないわけで、どうするかといえば「コンクリートの上でころがしたり、落としたりします」と高橋さん。 ??? なんとよしあしを見分けるのは、「音」!

 

「コンコンカンカン、と甲高い音がするシジミは、きちんと身が入ったいいシジミです」。と高橋さん。一方「ガボガボッと、した鈍い音の場合は、ちょっと弱っていたり、身が入っていませんね」。気の遠くなるような作業! 「機械化にチャレンジしたものの現段階ではなかなか難しい」のだそう。この時代において機械化不能!「人間の五感に勝るものなしです」(高橋さん)。 

 

「アサリに比べて、小さいから身を食べるのは面倒」」などといっている場合ではありません。宍道湖のシジミは「真珠」のように鑑定された「宝石」のような貝なのです。

 

 

徹底した資源管理で日本一! 宍道湖の水質浄化にも役立つシジミ 

長らくシジミ漁獲量日本一の栄光を誇っていた島根のシジミ。けれど、平成23年、宍道湖の資源水準が低下し、20年連続1位の座を青森県に譲り渡してしまいました。 

 

そのため、宍道湖漁協では、一人あたりの漁獲量を1日90キロ、操業日数と時間を制限するなどのルールを設け、平成26年には1位に復活。いまも、厳しいルールを設けて、サスティナブルな漁業に努めています。 

 

 シジミは、宍道湖の環境保全にも一役買っています。「シジミは偉いんです」と、島根県水産技術センター内水面浅海部の勢村均さん。シジミは、入水管から水と一緒に植物プランクトンなどの有機物をとりこみ、エラで濾過して餌にします。いわば、肥料を使わず自然の恵みで成長するのです。 

 

そして、その濾過水量は、シジミ1gあたり、約170CC。宍道湖全体のシジミでは1日で約1億3000tの水を濾過します。これは宍道湖の水全体を3日間で濾過しているということ! 宍道湖の水質浄化に役立つ、貴重な生物なのです。湖の生態系を守る「おいしい」貝。たしかに、偉い!

 

 

漁師直営の「しじみ屋」で絶品の「シジミの酒蒸し」を味わう 

「しじみ屋」は、宍道湖漁業協同組合青年部の組合員でもある漁業者たちが、自らが採ったシジミや、シジミ加工品を販売している「漁師直営」の会社です。「宍道湖のシジミは最高に旨いです」と代表をつとめる引野篤さん。「食べてみますか?」と、引野さんが「シジミの酒蒸し」を作ってくれた。大粒で身がふっくら。アサリの酒蒸しでは味わえない、ギュッと旨みが凝縮された味わいが堪能できることに感動! 白濁した汁は、なんとも濃厚で、ゴクゴクと身体にしみこむような美味しさです。 

 

「ラーメン屋さんからのオーダーも多いんですよ。このパンチのある旨みは、アサリでもなくハマグリでもなく、シジミしか出せない、って」と引野さん。 

 

ちなみに「昔、漁師さんたちは、ドラム缶の上で、シジミを酒蒸しにしてそれをつまみに酒を飲んでいたそうです」と引野さん。シジミの酒蒸しは、アサリと違って身離れがいいのでお箸は不要。片手にお酒を持っていても、もう一方の手で食べられる! 酒飲みには、健康面でも、食べやすさでも、美味しさでも「最高の、おつまみ」になりそうです(笑)。

 

シジミはシジミ汁だけじゃない! 和洋中、バリエーション多彩なレシピ  

引野さんは、もともとはメーカーのサラリーマンでしたが「島根の特産品を通して地域に貢献したい」と、脱サラ。シジミ漁師だった祖父を次いだそうです。「シジミ漁なんてたいしたことない、って思ってたけど最初はしんどくて、体がボロボロでした(笑)」。引野さんは、手掻きで漁を行っています。シジミがひとたび、カゴにかかれば重さは10キロ以上。重労働です。次第に慣れたころ、本当にいいシジミを、自分たちの手で販売しようと仲間たちと「しじみ屋」を立ちあげました。 

 

じつは、シジミの消費量は年々減っています。「10年前に比べて、約4割減少しているという国のデータが発表されているんですよ」。(引野さん)。シジミといえば、シジミ汁。食生活の洋風化が進む中、「シジミの存在」が薄くなってきているようです。 

 

 引野さんは、シジミをもっと日常的に親しんでもらおうと数々の努力を続けています。「シジミはシジミ汁にしか使えない、という概念を取り払ってもらいたい。シジミはいろんなレシピに使えるんです!」。 


 しじみ屋では、HPでさまざまな調理法を提案しています。そのレシピは驚くほど多彩! 「シジミのアヒージョ」「シジミのガーリックバター炒め」「シジミのペペロンチーノ」「シジミのリゾット」。加工品では「しじみのクラムチャウダー」もあります。濃厚なシジミの旨みは牛乳との相性もバツグン。シジミは洋風にも使えるのです。しじみ屋のレシピは、チャイニーズやエスニックも豊富です。 

 

アサリにできることはシジミにもできる! 

そんなレシピを見ていてハタと気づきました。

 

「アサリにできることは、ほぼほぼ、シジミにもできる」!

 

というわけで、わたしもアサリレシピを片っ端からシジミに置き換えてみました。アクアパッツア、ボンゴレ、ペスカトーレ、ワイン蒸し、ブイヤベース、。どれもこれも、アサリより「ガツンとくる」味わいに変貌! 凄いぞ、シジミ!!

 

料理をワンランクアップしたいなら、シジミをひとつかみ投入。 

冷凍シジミの栄養成分は生の8倍にアップ! 

 

さらなる発見は、料理の味わいをワンランクしたいなら「シジミをひとつかみ、投入すればいい」ということです。汁もの、煮物などを調理している際に、「なんだか味が足りないな」というときは、調味料やコンソメなどを足さずに、シジミに頼ればいいのです。引野さんもこう語っていました。

 

「インスタントラーメンに入れてみてくださいよ。とんでもなく旨みが出るので、絶品になりますから!」 

 

砂ぬきしたシジミは冷凍しておけばいつでも使えます。そのうえシジミは、冷凍保存すると栄養価が上がります。含有量の多い、栄養成分・オルニチンが生の8倍にまで増えるのです。料理がワンランク上の味わいになるばかりか、栄養価もアップ。シジミマジックで「おいしくパワーアップメニュー」を作れるなんて、素晴らしすぎる! 

宍道湖のシジミは湖の潮の満ち引きが大きいことから、塩分の変化が激しいために、他の汽水湖のシジミより、内蔵が発達。そのぶん身に、旨み成分が凝縮されています。「料理上手」をアピールしたいなら、「宍道湖のシジミ」を使ってみてくださいね。 

        レシピ

           つやつやとした殻も美しい、宍道湖のシジミ  

 

          レシピ

  しじみ屋の引野篤さん。「毎日しじみを食べているおかげで元気です(笑)」

 

          レシピ

    シジミの酒蒸し。旨味いっぱいのエキスがどんどん染み出してきます。

         レシピ   

  宍道湖のシジミをPRするために引野さんが生み出したキャラクター「しじみマン」。

  テーマソング「しじみソング」もあります。     

 

二日酔いにおすすめ シジミレシピ

 シジミとトマトのサラダ 

解毒作用のあるしじみと、薬膳では「酒毒解消」という効能がある

トマトを組み合わせた二日酔いにおすすめのサラダ。

二日酔い防止のために、おつまみにするのももちろんおすすめ。 


<材料> 2人分

シジミ 200g

トマト(乱切り) 1

しそ(千切り)2

にんにく(みじん切り) 少々

日本酒 大さじ3

A(オリーブ油、しょうゆ、酢 各大さじ1.5、きび砂糖 ひとつまみ、こしょう少々) 


<作り方>


1.なべにシジミ、にんにく、日本酒を入れて熱し、ふたをして

殻があいたら火を止め、Aを加えて冷ます。


2.ボウルにトマト、1を入れてあえ、器に盛り、しそを散らす

 

 レシピ

 

         しじみレシピ仕上がりです。